岡山・備中高梁へ——天空の山城と静かな城下町をめぐる日帰り旅
岡山駅からJR伯備線に揺られること、普通列車で約50分。特急「やくも」を使えば35分ほどで着いてしまう、その気軽さに反して、備中高梁で待っているのは「日本一高い場所に建つ現存天守」という、少し大げさな肩書きを持つ城だ。観光地化されすぎていない城下町を、静かに歩いた日帰り旅の記録を書いておく。
備中松山城——雲海に浮かぶ、天空の山城
備中松山城は、現存12天守の中で唯一の山城であり、もっとも標高の高い場所に天守を持つ城でもある。天守は標高およそ430メートルの岩山の上に建ち、高さそのものは11メートルほどと現存天守の中では小ぶりだけれど、切り立った岩肌の上にすっと建つ姿には、小ぶりさを感じさせない存在感がある。備中高梁駅からはバスや乗合タクシーで登山口まで向かい、そこから徒歩で20分ほど山道を登る。息が上がる頃、木々の隙間から石垣が見えてくる瞬間は、この城が「守るための城」だったことを、体で理解させてくれる。
秋から冬にかけての早朝には、麓の町がすっぽりと雲海に沈み、天守だけが雲の上に浮かんで見えることがある。「日本一高い場所にある現存天守」という肩書きは、晴れた日よりもむしろ、その雲海の日にこそ実感できるものかもしれない。
石火矢町ふるさと村——武家屋敷が残る、静かな通り
城下町には、江戸時代の面影を残す武家屋敷の通りが今も残っている。石火矢町ふるさと村と呼ばれるこの一帯は、白壁と土塀が続くだけの、何か特別なアトラクションがあるわけではない通りだ。けれど、その「何もない」静けさこそが心地いい。観光客の姿もまばらで、瓦屋根の向こうに山々が見える景色を、誰にも急かされずゆっくり眺められる。奈良・高取山城を歩いたときと同じ、「日本三大山城」のもう一つの土地を静かに踏みしめている実感があった。
頼久寺庭園——小堀遠州が手がけた、鶴亀の枯山水
城下町の中心には、江戸初期の茶人であり作庭家でもあった小堀遠州が手がけたという庭園を持つ、頼久寺がある。刈り込まれたサツキが青海波の文様を描き、鶴島と亀島を象った石組みが静かに配置されている。縁側に座って庭を眺めていると、山城を登った後の足の疲れが、少しずつほどけていくのがわかる。
岡山駅から日帰りで戻れる距離にありながら、町を歩く人の数は驚くほど少ない。城も、武家屋敷も、庭園も、それぞれに「静かに残っている」という共通点がある。少し足を延ばせば、備中国分寺の五重塔や吉備津神社が点在する吉備路も広がっている。そちらは自転車で古代の史跡をたどる、また別の一日の旅として、次に取っておきたい。
山城を静かに歩く旅は奈良・高取山城 一人歩きにも書いた。城下町や古い町並みをめぐりたい人は古い町並みの一人旅3選もあわせてどうぞ。


