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Roametic-Travel~余白の旅

札幌のじゃない方──帯広・十勝、何もない広大な大地で「ある」ことを学ぶ
Journal

札幌のじゃない方──帯広・十勝、何もない広大な大地で「ある」ことを学ぶ

K.V.T

北海道に行くとき、人はたいてい函館か札幌か、あるいは富良野・美瑛を思い浮かべる。でも私は、帯広を選んだ。理由は単純で、「ほとんど誰も行かない」と聞いたからだ。

札幌を外した一人旅の穴場 ── 女性でも安心して歩ける帯広・十勝

観光客の多い札幌・函館と違い、帯広の混雑を避けるのは容易だ。女性一人旅でも、広大な十勝平野をゆったり運転しながら、自分のペースで余白を味わえる。

十勝平野の中心、帯広。東京から飛行機で約1時間40分。そこには、日本離れした広大な風景と、北海道でも特に「のんびりした」空気がある。

帯広 十勝平野の広大な農場 ── 地平線が見える北海道の大地
十勝平野 地平線まで続く農場の風景

札幌でも函館でもない、十勝・帯広へ

帯広のことを話すと、「何があるの?」とよく聞かれる。正直に言えば、有名な観光スポットは多くない。でもだからこそ、この場所は好きだ。

十勝平野は、農業の地だ。小麦、てんさい、じゃがいも、大豆、とうもろこし。日本の食を支える畑が、地平線まで続いている。その規模感は、本州の農村とはまるで違う。「農業」が「産業」であることを、肌で感じさせてくれる場所だ。

帯広市街自体はコンパクトで、駅周辺を歩けば一通り巡れる。でも市街地から少し足を延ばすと、そこは別世界になる。

朝の帯広競馬場 ― ばんえい競馬を見る

帯広に着いて最初に向かったのは、帯広競馬場だ。ここでは「ばんえい競馬」という、世界でも帯広にしかない競馬が行われている。

普通の競馬は馬がスラリとした軽種馬を走らせるが、ばんえい競馬はペルシュロンやブルトンといった重種馬が、重い鉄製のそりを引いて直線コースを歩く競技だ。走る、というより「ゆっくりと力強く歩む」というイメージが近い。途中で休憩しながら、体重1トンを超える馬が荒々しい息遣いでそりを引く姿は、圧倒的だ。

午前中の早い時間に行くと、厩舎を見学できることもある。馬の体の大きさ、眼の穏やかさ、蹄の重さ。間近で見ると、なんとも不思議な生き物だと思う。こんなに大きいのに、こんなに静かに立っている。

帯広競馬場のばんえい競馬 ── 重種馬が鉄のそりを引く世界唯一の競馬
ばんえい競馬 重種馬が力強くそりを引く

十勝千年の森 ― 地平線が見える場所

帯広市内から車で約40分。「十勝千年の森」という場所がある。

イギリスのランドスケープデザイナーが設計した広大なガーデンで、年間を通じて様々な表情を見せる。私が訪れたのは7月の初旬。芝生のメドウガーデンには、ウェーブ状に刈られた草原の中にラベンダーや野花が咲いていた。

一番印象に残ったのは、「アース・ガーデン」というゾーンだ。広大な芝生の丘がうねるように続き、その先に十勝の農場と山並みが見渡せる。「地平線が見える」という感覚は、日本では珍しい体験だ。

ベンチに座って、ただ風に吹かれていた。小1時間、何もしなかった。でも退屈じゃなかった。空が広く、風が草を揺らし、遠くで牛の声がする。それだけで、十分すぎるくらいの時間だった。

十勝千年の森 アース・ガーデンの芝生の丘 ── 地平線を望むランドスケープ
十勝千年の森 芝生の丘と山並み

六花亭・帯広本店 ― 旅のご褒美として

帯広 一人旅 女性におすすめ ── 六花亭本店で過ごす旅のご褒美時間

帯広で外せないのが、六花亭(ろっかてい)だ。「マルセイバターサンド」で知られる老舗菓子店だが、帯広本店は土産物屋というより、地元の人の日常に根付いた場所だ。

本店の2階には喫茶室がある。注文したのは、バターどら焼きとコーヒー。テーブルの向こうに帯広の街並みが見える。平日のお昼前、店内には地元の人が多く、のんびりとした空気が流れていた。

旅先でこういう場所に座れると、「観光客」から「ここにいる人」になれる気がする。有名なスポットを巡るのではなく、地元の人と同じ時間を過ごす。それが一人旅の、いちばんの贅沢かもしれない。

帯広 六花亭のマルセイバターサンド ── 旅のご褒美の定番銘菓
六花亭 マルセイバターサンド 旅のご褒美に

白樺の林と、スローな時間

帯広近郊のドライブでは、白樺の林が点在する農道を走った。白と黒の縞模様の幹が並ぶ風景は、どこか北欧的で清潔感がある。

途中で車を止めて、林の中に入ってみた。葉の隙間から差し込む光が、地面に模様を作っている。都市では聞こえない、葉が揺れる音だけが聞こえた。

帯広近郊 白樺林の木漏れ日 ── 農道に並ぶ白と黒の縞模様
白樺林 葉が揺れ光が降りる北海道の静けさ

旅の中で「何もしない」は、実は難しいことだ。でも帯広では、自然がそれを強制的にさせてくれる。見渡す限りの農場、ゆっくり流れる雲、風の中で揺れる白樺。何もしないで「ある」ことが、ここでは許されている。

帯広の夜 ― 豚丼と炉端の地酒

帯広名物の豚丼を、夜に食べた。帯広の豚丼は甘辛いタレで焼いた豚肉をどんぶりに盛るもので、炭火で焼いたものは香ばしさが際立つ。地元の老舗で食べると、観光向けの店と明らかに違う。タレの甘みが深く、肉に脂の旨みがある。

帯広名物の豚丼 ── 炭火で焼いた豚肉の甘辛ダレと香ばしさ
帯広の豚丼 炭火焼きの甘辛ダレが絡む

食後、居酒屋で十勝の地酒を一合。カウンターに座ると、隣の常連さんが話しかけてきた。「帯広は何もなくてつまらんでしょ」と言うから、「いや、それが良くて来ました」と答えた。彼はしばらく考えてから、「そういう人が最近増えてきたな」と言った。

帯広へ ― アクセスと旅のヒント

アクセス:羽田〜とかち帯広空港(約1時間40分)。空港から帯広市内はバスで約35分。レンタカーがあると周辺観光に便利(郊外スポットへのアクセス手段が車中心)。

おすすめ時期:6〜9月(農場の緑が美しい)、特に7月は十勝千年の森の花が見頃。10〜11月は紅葉と収穫風景。厳冬期(1〜2月)の雪景色も独特の美しさがある。

ばんえい競馬:帯広競馬場では毎週土日(一部金曜も)開催。入場料無料、レースは午後が中心。馬券は買わなくても見るだけで楽しめる。

一人旅のポイント:帯広市内は徒歩でも回れるコンパクトな街。ただし郊外観光にはレンタカーが必須。六花亭本店やインデアン(地元カレーチェーン)など地元グルメが充実している。