Skip to content

Roametic-Travel~余白の旅

伊勢のじゃない方②──出雲大社と松江、神話の土地を一人で歩く
Journal

伊勢のじゃない方②──出雲大社と松江、神話の土地を一人で歩く

K.V.T

出雲大社に行くとき、私は「お参り」よりも「時間をかけて歩く」ことを目的にしていた。日本最大級の縁結びの神様と聞けば、混雑した参道と観光バスを想像してしまうかもしれない。でも、朝の早い時間に訪れると、そこは全く違う場所になる。

伊勢神宮の混雑を避ける ── 出雲大社で味わう女性一人旅の静けさ

「一人旅 穴場」として急浮上しているのが出雲大社。女性一人旅でも安全で、平日の朝であれば本殿前もほぼ独占できる。松江の水辺と組み合わせれば、混雑を避ける神話の土地めぐりが完成する。

松江に一泊して、翌朝8時前に出雲大社の門をくぐった。参道の砂利を踏む音だけが響いていた。

伊勢でも京都でもない「出雲」へ

神社巡りの旅と聞けば、多くの人は伊勢神宮か、京都の神社を思い浮かべる。それも素晴らしい選択だけれど、出雲はまったく違う空気を持っている。

島根県出雲市。山陰の、決してアクセスが良いとは言えない場所に、出雲大社はある。羽田から出雲縁結び空港まで約1時間20分。あるいは東京から新幹線で岡山まで3時間半、特急やくもで2時間。合計5〜6時間の道のりは、訪れる人を自然と選ぶ。

でもそれがいい。気軽に行けない場所は、行き着いたときの重みが違う。

出雲は、古事記の舞台だ。神々が集い、国を造った土地。それは観光パンフレットに書かれた紹介文ではなく、土地そのものが持つ雰囲気として感じることができる。空が低く、雲が濃く、風が少し湿っている。山陰の気候は、どこか神話的な重さがある。

出雲大社の朝 ― 参道を独り占めする

出雲大社の正門(勢溜の大鳥居)から本殿までは、約800メートルの参道が続く。松並木の下を、朝の光が斜めに差し込んでくる。観光客が増えるのは10時以降なので、8時台はほぼ自分だけの世界だ。

参道を歩きながら、ふと気づいた。大社の参道は下り坂になっている。普通の神社は登り坂の参道が多いが、出雲大社は「神様の元へ降りていく」構造になっているのだという。神様のほうが下にいる、という発想が、なんとも出雲らしい。

本殿(八足門の前)に立ったとき、思わず息をのんだ。注連縄が太い。日本最大級の注連縄は、迫力というより、存在感がある。でも怖くはない。どちらかというと、包まれるような感覚があった。

出雲大社の参拝方法は「二礼四拍手一礼」。通常の神社と異なり、四拍手という特別な作法がある。それを知って手を合わせると、何だか真剣な気持ちになった。縁結び、と言うと恋愛のことばかりが語られるが、本来は「人と人との縁すべて」を結ぶ神様なのだという。

稲佐の浜、神話の海へ

大社から徒歩15分ほどのところに、稲佐の浜(いなさのはま)がある。

古事記に登場する浜だ。大国主命が国譲りをした場所とも伝えられ、毎年10月(旧暦)には全国の神々がここに上陸して出雲大社に集まるのだという。神在月(かみありづき)と呼ばれる時期、出雲では神様が来て、他の土地は神様不在になる。だから他の土地では同じ10月を「神無月」と呼ぶ。

弁天島という岩が、海の中に立っている。鳥居が建てられ、小さな社がある。潮風の中でそれを見ていたら、何か大きなものの端っこに触れているような気がした。

観光バスは来ない。砂浜には、地元の人がただ歩いているだけだった。

松江 ― 水の都で一泊する

松江 女性一人旅の穴場 ── 水の都で泊まる一人旅プラン

出雲大社の参拝を終え、一畑電車で松江へ向かった。松江は、宍道湖(しんじこ)という大きな湖を抱く城下町だ。国宝の松江城を中心に、堀川が縦横に走っている。

夕方に着いて、まず堀川の遊覧船に乗った。橋の下をくぐるたびに屋根が自動的に折りたたまれる構造になっており、船頭さんがのんびりした口調で説明してくれる。宍道湖に沈む夕日の時間を逆算して、湖岸に向かった。

山陰の夕日は有名だ。宍道湖の水面が金色に染まり、遠くに島根の山が霞む。観光客も多い場所ではあるが、それでも夕日の前では人が静かになる。みんな、しばらく黙ってそれを見ていた。

泊まったのは、松江城の近くにある老舗旅館だ。部屋に入ると窓から堀川が見える。夜、浴衣を着て近所を少し歩いた。城下町の夜は静かで、石畳に街灯の光が落ちていた。

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の部屋で

松江で外せない場所のひとつが、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の旧居と記念館だ。

アイルランド生まれのハーンは、明治時代に松江に赴任し、日本文化に惚れ込んでこの地に居を定めた。日本人女性と結婚し、日本に帰化して「小泉八雲」という名を持った。彼が書いた怪談(KWAIDAN)は、今も世界中で読まれている。

旧居の庭は小さいが、丁寧に手入れされた和の庭だ。縁側に座ってその庭を見ると、外国からやってきた一人の人間が、なぜこの土地に魅了されたのかが、少しわかる気がした。日本の「余白」に、彼も魅了されていたのかもしれない。

出雲そば、釜揚げか割子か

出雲といえば、出雲そばも外せない。日本三大そばのひとつとも言われ、信州そば、わんこそばと並び称される。

出雲そばの特徴は、そば殻ごと挽いた「挽きぐるみ」の黒みがかった麺。食べ方は「割子(わりご)」か「釜揚げ」のどちらか。割子は丸い漆器の器に盛られた冷そばに、直接つゆをかけて食べる。釜揚げは茹でたままのそばを茹で汁ごと器に盛り、後からつゆを注ぐ。

松江の老舗そば屋で、割子を3段いただいた。薬味は刻みのり・ねぎ・鰹節。シンプルだけれど、そば自体のコシと風味が際立っていた。観光地のそばにありがちな、水っぽさや柔らかすぎる感じがない。

一人でこそ、出雲へ

出雲・松江の旅を終えて、思ったことがある。ここは「誰かと行く」より「一人で行く」ほうが深く刺さる場所かもしれない、ということ。

神話の舞台を歩くとき、「縁」というものを考えるとき、自分の過去と現在と未来について思うとき、隣に誰かがいると、その思考はどこかで途切れる。でも一人なら、参道を歩きながら、稲佐の浜の波を聞きながら、ただその場所に自分だけがいる感覚の中に沈んでいける。

縁結びの神様に、何を願ったかは内緒だ。でも願った後、参道を登りながら(帰りは登り坂になる)、少し心が軽くなった気がした。


山陰は遠い。でもその遠さが、旅をちゃんとした旅にしてくれる。出雲と松江は、余白を探す旅のために、あつらえたような場所だった。

出雲・松江へ ― アクセスと旅のヒント

アクセス:羽田〜出雲縁結び空港(約1時間20分)+空港バスで出雲大社連絡所まで約25分。または新幹線で岡山→特急やくもで松江・出雲市(計5〜6時間)。

モデルプラン(1泊2日):1日目 午前・出雲大社と稲佐の浜→午後・松江へ移動、堀川遊覧と宍道湖夕日→夜・松江泊。2日目 午前・松江城と小泉八雲旧居→昼・出雲そばでランチ→帰途。

おすすめ時期:4〜5月(新緑)、10〜11月の神在月(神楽や神事が多い)。真冬は山陰独特の曇天・時雨が続くが、それはそれで旅情がある。

一人旅の安心ポイント:出雲大社周辺・松江中心部ともに治安が良く、女性一人でも夜の城下町を散策できる。旅館・宿は一人泊を受け入れるところが多い。